「給与市場を透明に。キャリアをもっと自由に。」というビジョンのもと立ち上げられた、エンジニア向け給料データベースサービスPROJECT COMP。10月7日に「エンジニアの給与相場のリアル」を題材に、第一回となるウェビナーを開催しました。
エンジニアのリクルーターとして活躍するDeNAの大月英照氏をゲストに招き、企業間給与格差や多くの企業が狙うエンジニア像など、エンジニアの給与相場の現状について、代表の田川と徹底対談。本記事では、ウェビナーの内容を詳しくお届けします。
新卒でDeNAに入社後、営業やソーシャルゲームエンジニア、ゲームプロデューサー、子会社社長、人事責任者、執行役員などを務める。ここまでの経験で国内の給与体系のあり方へ疑問を持ち、起業。現在は本サービスのPOとして、サービスを牽引。
Engineer歴6年、Sales6年、HR6年、bizdev等2年を経て現在に至る。経験企業はNEC→Recruit Career→DeNA→ベンチャー役員→Supership。現在はDeNAのCTO室にいながら自身の会社でベンチャー企業のHP、Sales、PMとして活動している。
データで見る企業間給与格差

田川
はじめに「企業間給与格差」の問題について触れていきたいと思います。PROJECT COMPの給与データを見ると、企業間でかなりの年収格差があることが分かっています。
例えば以下は、会社ごとに平均年収を出し、上から順に並べたデータです。上位に外資系が並び、次にメガベンチャーが並ぶという結果になっています。

01. 企業間給与格差?!

田川
さらにこちらは、先ほどのデータをもとに、縦軸に企業の時価総額、横軸にその平均年収をとったグラフになります。オレンジの線が、グラフに表示されている企業全体の平均年収、平均時価総額です。

01. 企業間給与格差?!

田川
基本的には、平均年収というのはやはり、時価総額と相関するような形で右肩上がりに分布しているように見えます。他方で④象限にある、相対的に時価総額は上がりきっていないものの、給与水準を上げている企業が見えてきました。
このように、時価総額が上がる前に優秀な人材を確保するために給与水準を上げているという企業が増えてきているのかなという印象もあります。大月さんからみて、このようなトレンドは実際にあるのでしょうか?

大月
アメリカや中国では一般的になってきています。時価総額が上がり会社に余裕ができて社員に還元するというのは当たり前で、その前に良い人材を確保するために、給与水準を高くし正当な評価をするということですね。スタートアップの中には特にそういった企業が増えてきているなと感じています。

田川
なるほど。やはり④象限のような企業がスタートアップにも出てくることは重要だと思うので、今後も注目していきたいですね。
今、多くの企業が狙っている人材とは?

田川
では今、転職市場はどうなっているのでしょうか。企業はどのような人材が欲しいのか、転職に関するデータを見ながら、お話を伺っていきたいと思います。
企業が転職の際に狙うのはどのような企業の人材?

02. 今、多くの企業が狙っている人材とは?!

田川
逆に、企業人事やリクルーターは、自分たちの企業の平均年収よりも若干低いところの人材を狙っているというような現状があるのかなと思っています。

02. 今、多くの企業が狙っている人材とは?!

田川
このように現状では、採用側と転職者の利益がマッチして、結果として年収水準が上がるような転職が実現されているんじゃないかと考えています。この認識は大月さんからみていかがですか?

大月
そのような感覚は私も持っています。もちろん社風の一致等もあるので、必ずしもというわけではないですが、年収帯の高い会社から年収帯の低い会社の人材にスカウトや転職を促すというケースは非常に多いですね。
逆に年収帯として下の企業が上の企業の人材をターゲティングすることもあります。しかしその場合は例えばCTOといった上のレイヤーの職種を1人募集するといったことが多いです。数は圧倒的に上の会社から下の会社へのターゲティングが多いので、その印象は正しいと思いますね。
年収帯と転職事情

田川
PROJECT COMPのデータをもとに、転職した人の元の年収帯別に、前掲の表の平均年収がより高い企業に転職した割合と、転職した人の中で年収がアップした人の割合、平均の年収変化率をまとめた表がこちらです。

02. 今、多くの企業が狙っている人材とは?!

田川
この表を見ても、平均年収がより高い会社に転職しているという傾向があることが分かります。逆に言えば、年収帯が上の方は、平均年収が低い会社に行っている事例もあり、大月さんが先ほど指摘したような事例も見て取れます。
夢じゃない!年収1000万円という数字

田川
次に、「年収1000万円」にフォーカスして大月さんに話を伺っていきたいと思います。
これは、PROJECT COMPのデータの中で、社会人歴別に平均年収を示したものになります。PROJECT COMPに登録されているような企業で着実にキャリアを積めば、10年くらいで1000万円を目指せるということが見て取れます。

03. 意外と多い?!年収1,000万という話

田川
また、以下は勤続年数別に年収の分布を棒グラフで表したものです。「社会人歴5年目」では、5〜10%くらいの人が年収1000万円以上をもらっているという結果が出ています。

03. 意外と多い?!年収1,000万という話

田川
15年目以降になると、1000万円以上の比率が50%に近くなってきています。つまり、「年収1000万円」は決して難しい数字ではなく、着実にキャリアを積めば目指せるという市場になっているということがこのデータからは見て取れると思います。この感覚は大月さんからみていかがでしょうか?

03. 意外と多い?!年収1,000万という話

大月
私はエンジニアの採用だけでなく、評価にも関わっているのですが、その中でいうと、年収1000万円は決して夢のような数字ではないと思いますね。私の感覚では、30歳くらい、つまり院卒だと6年目、学部卒だと8年目。それくらいから1000万円をもらう人が増えてくるイメージです。
そもそも、年収1000万円って、30年前に比べるとそんなに裕福じゃないんですよ。というのも1980年代後半では、30歳で年収600万円を越えていると「かなり稼いでいる」という時代でした。仮に年収1000万円もらっていれば、税金を引かれた手取りが、900〜950万円残る、というような感覚で。ただ、今は1000万円もらっても、手取りは600〜650万円ほどなんです。昔の年収600万にかなり近いと。
となると現状では、30歳に1000万円くらいの水準になってくるというのが、設計としては本来正しいなと考えています。そのために税金を上げているというのもあると思いますね。
ただ現状では、世間全体としては水準が上がってきていない印象です。それに先んじて、Web企業の特にエンジニア職に関しては、30歳くらいで1000万円を目指せるような、適正な水準になってきているなと思っています。

田川
なるほど。昔の年収1000万円と同じような水準の生活をするには、今は1400〜1500万円くらいはもらっていないといけないと。

大月
そうですね。ただ普通の会社員でそこまでの給与水準を出している会社は、その多くが外資企業で、日本企業にはほとんどない状況ですね。日本人は日本が好きで、どんなに景気が悪くても日本からあまり出ないとは言われていますが、そうはいってもこのような現状だと少しづつ人材が流出していくんじゃないか、というのが業界ではすごく不安視されています。

田川
DXの文脈でIT部門の立ち上げ等をやっていく会社が現在たくさんありますよね。そんな中で、DeNAを中心としたWeb業界には、先ほどのデータで見たように、1000万オーバーの方が一定数いるような状況で、例えば従来的な給与テーブルを使っている大企業とかがIT人材を採ろうとしたとき、「給与テーブル的にそもそも無理」ということにはなっていないんでしょうか?

大月
なっていますね。なので、採用したいという話だけではなく、給与制度から改定したいという依頼から来るケースがかなり増えてきています。
特に日本の、伝統的な事業をやっている大企業さんからくることが多いですね。ただ制度から変えるとなると、時間もかかりますし、内部からの反発もすごいので、難しいところです。

田川
そうですよね、やっぱりそこに課題感があるなと思っています。給与テーブルって一回作ってしまうと、Web系の企業でさえも5年とか、10年とか、使い続けるところが多いじゃないですか。
給与テーブルは、作ってしまったら市場から離れるというか、その改変にもまた数年のプロジェクトを立てる必要があるわけですよね。いわゆる外資企業がこれだけ入ってきて給与水準がつり上がっている中で、給与テーブルはそもそも作らない方がいいんじゃないかと考えることもできると思うのですが、どうでしょうか?

大月
確かに作らないのも手かもしれないですね。一方で、給与制度、評価制度の改定が早くなっている傾向はあります。確かに昔だと5年とか10年給与テーブルが変わらないというのは当たり前だったんですが、最近は、昔からある企業の中でも、2年とか3年くらいで変えようとしているところも増えてきている印象です。
転職はすればするほどいい?

田川
よくTwitterとかで、エンジニア職に限らず、「転職しまくった方が給料上がる」と発言している人を見かけるのですが、大月さんはこれについてどう思われますか?

大月
そうですね、その部分だけ切り取るとその通りだなとは思います。ただ一方で、元の会社で何も成し遂げていない状態での転職には意味がないとは思いますね。やっぱり3年とか、6年とか、ある程度の年数で、ある程度の成果を上げていると、転職の際にそれに対する評価として採用原資が支払われるので、短すぎる転職を繰り返すことにはメリットがないと思います。

田川
なるほど。PROJECT COMPのデータなどで平均勤続年数を見てみると、ずばり4、5年とかっていう数字なんですよ。まさに大月さんがおっしゃっていた3年から6年の間くらいかな、という印象です。

大月
業務習熟度って6年で飽和するといわれていて、何かを始めて6年以上続けてそのあとでものすごく伸びることってあまりないんですよ。その6年をいかに頑張るかが重要なわけです。それを転職により何セットも繰り返すことでキャリアを伸ばしていくと。それを凝縮して転職をしまくった方がいいと言えばその通りなんですが、先ほど言った通り短すぎるスパンでの転職にはメリットがないと思います。
今後、日本の給与水準はどうなる?自身のキャリアを考えよう

大月
現状、日本の給与水準は、先ほどの外資系企業の平均年収を見るとわかる通り、米国や中国に比べ、かなり低い傾向にあります。今後この状況はどうなっていくのか、また、どうなっていくべきなのでしょうか。
同じ能力を持つエンジニアに対し、日本の水準が海外に比べ低いというのを、田川さんは課題として感じていると。海外はどんどん水準が上がっていく中、優秀なエンジニアが海外に流出していってしまうという懸念も持たれているということですね。

田川
まさにその通りです。単純に給料を上げる転職をどんどんしようということではなく、ある意味市場性を取り込んだフェアな評価をせざるを得ない環境を作ることで、日本の給与水準を適正化し、底上げしていくことが重要だと思います。
PROJECT COMPでは、企業ごとの給与データをコンスタントにご登録いただいています。また、登録いただいた情報とPROJECT COMPのデータベースから、社会人歴、スキル、職種別に、自分の現在位置を把握することができます!

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